「UTOPIA-何処にもない場所-」と題し、ART BASE 百島とその周辺サイトを会場とした企画展覧会を行います。UTOPIA(ユートピア) はイギリスの思想家トマス・モアが1516 年に出版した著作の中で、空想国家の名称として生まれた造語です。その解釈をめぐっては、後に社会批判的側面を持ち合わせた思想の根幹として用いられた一方、空想社会を舞台とした文学作品の呼称として、また、しばしば楽観的な理想郷を意味する語としても一般に普及しました。本展覧会では、UTOPIA の語源であるギリシャ語のoutopos (ou,=無い,topos=場所)「 何処にもない場所」を瀬戸内の離島という都市から離れた特殊な環境になぞらえ、滞在制作において、根源的な生活環境を共有することで、各々の作家の視点から、現代のUTOPIA として示すべき場所を作品として提示します。

会場:ART BASE 百島 / 百島福田・本村地区各所

アーティスト/Artist

  • 諫山元貴
  • 泉山朗土
  • 岩崎貴宏
  • Collectif_fact
  • 下道基行
  • 槙原泰介
  • 水口鉄人
  • もうひとり
  • 吉田夏奈

《Chronos》 2010

諫山 元貴 ISAYAMA Genki

1987 年大分県生まれ、広島県在住。
2009年に京都造形芸術大学美術工芸学科総合造形コース卒業。現在、広島市立大学大学院芸術学研究科博士後期課程に在籍中。独特な手法で撮影されるドラマティックな映像インスタレーションは、「ULTRA AWARD 2010」(京都造形芸術大学・ULTRA FACTORY)の最優秀賞受賞によって頭角を現す。その他、「広島アートプロジェクト2009」(広島市中区吉島地区各所)、「Trans-Plex」(關渡美術館/台北/2011)、「ヒロシマ・オー ヒロシマフクシマ」(旧日本銀行広島支店/2012)において意欲的な発表を続けている。粘土や石膏、原初的な素材を用いて製作された壺やパイプなどが水の中で溶け崩れていく経過をとらえた繊細な映像は、彼の作品解説のなかで頻繁に登場するギリシャ語、クロノス×カイロスに象徴されるように、空想におけるより自由な時間軸と絶対的に通り過ぎる時間の交点を求め続けている。

《吉島の話》 2007

泉山 朗土 IZUMIYAMA Road

1974年東京都生まれ、福岡県在住。
武蔵野美術大学卒業後、柳幸典と犬島アートプロジェクト「精錬所」の実現に関わる。2004年からアニメーションやCG映像制作のほかアート・ドキュメントとして日比野克彦や中ハシ克シゲなどの美術館向け番組を制作。2007年の「広島アートプロジェクト」(広島市中区吉島地区、旧日本銀行広島支店)では、会場となった吉島地区の地域住民が町の歴史やアートプロジェクトに対する思いを語った姿がおさめられた映像と、同じく会場の一つであった旧日本銀行広島支店において長年当銀行を勤めた警備員が館内について語る映像を制作した。現在、オーストラリア人現代美術作家SUSAN NORRIEの映像作品の撮影監督(ヨコハマトリエンナーレ2011などで発表)のほか、震災復興のプロジェクトにも多く関わり東北の撮影に飛び回る。2004年より福岡市にRECOMEMO WORKSHOP & STUDIOを構える。

《テクトニック・モデル》 2008

岩崎 貴宏 IWASAKI Takahiro

1975年広島県生まれ、広島県在住。
2003年に広島市立大学芸術学研究科博士後期過程修了後、渡英。2005年にはエジンバラ・カレッジ・オブ・アート大学院を修了し、海外での豊富な経験を重ねているが、広島を活動拠点とする姿勢を貫く。国内では「六本木クロッシング2007 未来への脈動」(森美術館/東京)、「ヨコハマトリエンナーレ2011 OUR MAGIC HOUR」(横浜美術館/神奈川)などで発表し、「リヨンビエンナーレ2009」(フランス)、「ダブル・ヴィジョン―日本現代美術展」(ロシア、イスラエル/2012)と、近年数々の国際展に招待されている。在英中の厳しい生活の中で、ゴミの中から見出したという布切れや古本という素材は、作家の手によって鉄塔やクレーンといった精巧な風景のミニチュアとして再生され、繊細なインスタレーションを生み出す。2007年と2009年の「広島アートプロジェクト」では、多くのアーティストを牽引する企画力も発揮。

《Ways of Worldmaking》 2010

Collectif_fact コレクティフ ファクト

Annelore Schneider(アナロイ・シュナイダー/1979年スイス、ヌーシャテル生まれ)とClaude Piguet(クロード・ピゲ/1977年スイス、ヌーシャテル生まれ)の二人組のユニット。ジュネーブとロンドンに在住。CGや写真・映像技術を巧みに扱う彼らは、都市風景からネオンや看板などのビジュアル要素のみを抜き出し、それらで構成された風景の中を徘徊していく映像作品でデビューし、資本主義構造が生み出した現代社会への懐疑を静かに、鮮やかに表現する。2011年に映像作品《Ways of Worldmaking》でSwiss Art Award 2011を受賞。その映像は、社会の理想を謳うある男の演説シーンを撮ったものだが、実は男の台詞は複数のハリウッド映画の予告編から抜き出してつなぎ合わされたもの。主な展覧会に「WORLDMAKING」(Centred'art contemporain/ジュネーブ/スイス/2011)、「Ways of Worldmaking」(Galerie Mitterrand + Sanz,/チューリヒ/スイス/2011)、「CREEKSIDE OPEN 2011」(ロンドン/イギリス)などがある。

《bridge》 2011

下道 基行 SHITAMICHI Motoyuki

1978年岡山県生まれ、大阪府在住。
2001年に武蔵野美術大学を卒業後、旅やフィールドワークを元に写真や文章による表現を続けている。2005年に日本全国に残る軍事遺構の現状を調査・撮影した『戦争のかたち』をリトルモアより出版。その他、日本の国境線の外側を旅し、日本植民地時代の遺構の現状を調査・撮影した《torii》、用水路に架けられた木の板やブロックで出来た”橋のようなもの”を撮り集めた《bridge》など、風景の中に潜むスケールの異なる人々の営みや記憶を抽出する様々なシリーズ作品を展開。近年はフランスやベトナム、国内でのアーティスト・イン・レジデンスの経験を通じて国際的な活躍を見せており、今年は光州ビエンナーレ(韓国)にも参加し新人賞を受賞。広島では、2007年の「広島アートプロジェクト」(旧日本銀行広島支店)、「この素晴らしき世界」(広島市現代美術館/2012) に出品。

《flooring》 2008

槙原 泰介 MAKIHARA Taisuke

1977年広島県生まれ、広島県在住。
2003年に武蔵野美術大学大学院を修了し、東京を中心とした発表を続ける。2008年に銀座資生堂ギャラリーでの公募展において、大量のシンバルを使って空間に黄金の床を出現させるインスタレーションで大賞を受賞。一方ではアパートの一室を改装したギャラリーにボウリングボールリターンを出現させるなど、種類や大きさを問わず空間の特性を引き出し、主に既製品を設置することによって場の光景を一転させる作品を発表。2009年より、文化庁在外派遣でロンドンに2年間滞在。その間Florence Trustでのアーティスト・イン・レジデンスを経て絵画要素を用いた新たな展開を始める。2007年の「広島アートプロジェクト」(旧日本銀行広島支店)に出品。今回、ART BASE 百島の改修にも携わりながら、国内で久々の新作インスタレーションの発表を迎える。

《路上山水図》 2009

水口 鉄人 MIZUGUCHI Tetsuto

1985年広島県生まれ、広島県在住。
現在、広島市立大学大学院芸術学研究科博士後期課程に在籍中。最低限の絵画の構造を用いながら、身の回りにあるあらゆる物をメディウム化し、型にはまらない平面作品シリーズを展開。2009-2010年にベルリン・ヴァイセンゼー美術大学絵画科との交換留学に参加し、「Aussenstelle Fernsehturm」(ベルリンテレビ塔/ドイツ/2010)、「Anonymous Drawing N°10」 (Kunstraum Kreuzberg Bethanien/ドイツ/2010)などの展示を経験。広島では、「ヒロシマ・オー ヒロシマフクシマ」(旧日本銀行広島支店/2012)での発表の他、「広島アートプロジェクト2009」(広島市中区吉島地区各所)においては、屋外での制作にも取り組む。建物の外壁をキャンバスに見立て、そこに長年こびりついた汚れを落とすことで、水墨画を出現させるというグラフィティとも言えるサイトスペシフィックワークは、地域住民の間でも大いに話題を呼んだ。

《Win-dow》 2011

もうひとり MOUHITORI

小野環(1973年北海道生まれ、東京芸術大学大学院修了。)と三上清仁(1973年鹿児島県生まれ、東京芸術大学大学院修了。)によるユニット。広島県尾道市在住。2005年より尾道市を拠点に、場と関わる作品制作およびワークショップを行う傍ら、2007年から尾道市山手地区の施設や空き家にて、アーティスト・イン・レジデンス(AIR Onomichi)や、そのプラットホームである光明寺會舘を運営している。尾道市内の空き家再生プロジェクトにも関わる彼らは、町の代謝の中で発生する出来事や見放された場所に注目し、光や建材、植物を素材にサイトスペシフィックなインスタレーション作品を各地で発表している。2008年にヒロシマ・アートドキュメント、チェコ・プラハのアートイベントに招聘された他、2010年のAIR Onomichiでは、廃墟化した建物に生い茂る植物と蛍光灯を用い、ダンス・パフォーマーたちの舞台を作り上げ、再び人々が足を運ぶ場所へと変容させている。

《Beautiful Limit - Adventure into
the endless chaos -》 2010

吉田 夏奈 YOSHIDA Kana

1975年東京都生まれ、香川県小豆島在住。
2002年に広島市立大学芸術学部デザイン工芸学科を卒業。大学時代から始めた登山の経験から、厳しい大自然の中で捉えた感覚を通して想像の風景を描き出す作品を制作している。ロサンゼルス、フィンランドなどでも実際に自然と直面することで、風景としては捉えることはできないが確かに実在する細部を繋ぎ合わせ、違和感のある風景画として立ち上がらせるにも関わらず、見るものに不思議なリアリティを感じさせてくれる。2011年の東京オペラシティアートギャラリーでの個展で発表された、代表作の《Beautiful Limit ─》は、まだ見ぬ世界を追い求めていくかのように全長50mを越えた今も描き続けられている。2011年には、香川県小豆島でのレジデンスプログラムに参加し、フィールドワークによって捉えた島の全景をキャンバスに描き、それを島の形のような立体に展開する新たな試みにも挑戦している。